原価管理ソフトを建築業が取り入れるときの選び方のポイント
今や様々な業種で取り入れられている原価計算ソフトですが、特に建築業では業界特有の機能が必要ですので 、選ぶ際に注意する必要があります。こちらでは、業界特有の考えておくべき要素と選び方のポイントとなる機能について取り上げます。
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建築業で原価管理ソフトを取り入れる際に考えておくべきこと
原価管理ソフトは様々なものが販売されていますが、建築業では原価計算を行う際、業界特有の煩雑さがありますので、その事情を考慮して選ぶことが大切です。たとえば、個別原価計算という方式があり、工事ごとに原価の計算を行います。
さらに普通の業種であれば、原価として計算される費用の項目が、材料費・労務費・経費となりますが、外注のウェートが高い業界となるため、外注費も原価の対象となるのが特徴的です。加えて、各現場に共通して発生する費用は、間接費として各工事ごとに配賦することが求められます。
また、工事進行基準を適用している会社であれば、工事が進行している割合に応じて費用や収益を計算する必要があります。これらの情報は、費目別だけでなく、年度別の計算も必要となりますし、予算・実績管理にも使用されます。
そしてこのような分析結果は、経営計画や次期以降の事業計画にも影響が及びますので、正確でスピーディーな数値の提出が必要になる場合が多いものです。建築業特有のこれらの要求にこたえられる原価管理ソフトが必要になりますので、原価を計算できるソフトであれば何でもよいと言うわけにはいかないのです。
原価計算と案件管理が紐づいたソフト
では具体的にどんな機能が必要なのかを考えてみましょう。原価管理は各工事の案件の初期の段階から必要になってくるものです。そのため、案件管理と紐づいて情報の出し入れができるソフトが最適と言えます。
たとえば、見積作成ができる機能が付いていれば、確認のために原価計算書を参照したり印刷する手間が省けますので、スピーディーな提出に役立つでしょう。各金額データをエクセルなどの別ソフトで作成していることも少なくないため、それらのデジタルデータをそのまま読み込むことができれば、事務作業の軽減に役立ちます。
さらに、受注情報を建築業界での慣習に合った仕方で登録できることで、各業者との取引でのヒューマンエラーを防ぐこともできます。よくあるケースとして、発注者である顧客とは別に請求する必要がある場合などですが、そのような設定ができるのであればより良いと言えるでしょう。
受注情報には、図面や文書など原価計算に関わる非金銭的なデータもありますが、それらのデータも一元管理することができるソフトであれば、パソコンで様々なデータを検索する必要もなくなります。
予算計画を作成できる原価管理ソフト
せっかく見積書を作成したのであれば、それらの数値を予算計画に転用したいものです。原価管理ソフトの中には見積書を予算書にコピーする機能がついているものがありますし、コピーする際に原価金額と見積金額を選択する機能がついているものがあります。
さらに単価が変更になった場合には、同一の品目の単価を一括して変換することができるものもありますので、このような機能があれば予算金額作成時の間違いを減らしてくれるに違いありません。
また、データをエクセルなどの表計算ソフトで作成している場合でも、データの読み込みができるタイプのものであれば、もう一度手入力する手間を軽減できます。加えて、データを参照して発注データや注文書を簡単に作ることができるだけでなく、分割発注などにも対応できるソフトであれば予算を確認しながらのきめ細やかな発注が可能になります。
そして、請負契約で作成が不可欠な出来高報告書や出来高一覧表の作成を支援する機能がついていれば、業務効率化ができますし、工事請負代金の把握が早めにできるため資金繰りにも役立てられます。
かゆいところに手が届く原価管理機能
原価管理ソフトは様々発売されていますが、作業者を意識した機能がついているかどうかが選ぶ際のポイントとなります。
たとえば、原価管理に関するデータを入力する担当者は、労務関係のデータを入れつつ、他の材料や機械などの原価データを入力することもあります。ですので、入力画面を開いたり閉じたりすることが多いと作業が非効率的になってしまいます。
各原価項目がタブ形式などになっていて、必要な項目のタブを選択するだけで様々な項目を入力できるのであれば、効率よく入力や確認ができるはずです。
さらに最近では、各従業員がスマートフォンなどで打刻できる勤怠データに対応できるものが出てきているようです。データを入れる際の工夫の他に、様々な観点で売上・原価・収益を分析できたり、収支予想ができるものもありますので、生産管理の面で役立てている使用者もいるようです。
収支管理は工事進行基準での進捗率によっても出すことが可能であれば、月次・四半期・年次決算データとしても使用できます。また、建築業特有のJV管理の原価管理や出資金管理にも使用できるソフトがあります。
支払・請求・見込案件や引き渡し管理に役立つ
建築業では関わる業者の数が多く、支払条件も複雑な場合が多いものです。そのような複雑な支払条件などの情報を細かく設定したり、実際の発注データや支払い予定のデータに反映させられるかどうかも選ぶ際のポイントとなります。
そして工事ごとに査定した金額を入力したり、協力会費や相殺金額など業界の慣習に即したデータが簡単に入れられたり、振り込みや手形など複数の種類の支払データを入力でき、支払伝票や予定表を簡単に作成できることも大切な要素です。
売掛金も同様で、顧客ごと・締日ごとの請求書発行や売掛管理が容易に行えるかどうかも見る必要があります。その際に、過去の売上・入金伝票をコピーしたり、すでに入力済みの見積データを転用できる機能がついていると、事務負担の軽減に役立つことでしょう。
さらに、見込案件や引き渡し後の管理ができるものであれば、商談のタイミングを計ったり、修繕やメンテナンスの提案をすることができるでしょう。付随して、工事にかかわった業者の発注履歴も参照できれば、対応できる業者を容易に見極めることができますし、クレーム対応も迅速に行うのに役立ちます。
原価管理ソフトに搭載されているその他の便利な機能
原価管理ソフトには、原価管理の担当者にとどまらず管理事務に携わる方々の負担を軽減する機能がついているソフトがあります。たとえば、財務会計システムと連動できるものや給与計算ソフトに勤怠データを転送できる機能が付いたものなどです。
最近では各企業のガバナンス強化に伴い、内部統制を強化しているところも多くなりましたが、承認機能が充実している原価管理ソフトも出ています。承認機能には、承認申請だけでなくコメントを入れられたり、承認前の取り戻しや承認者が容易に内容を確認できる画面構成となっているものもあります。
また、工事の各現場で必要になる一括有期事業の届出書類の作成も自動でできたり、労災保険料の原価計算に対応する機能が付加されているものがあります。入出庫管理や在庫管理にも対応していて、在庫の廃棄や損失計上・棚卸調整の機能がついているものであれば、現実に即した管理ができることでしょう。
加えて資材の貸し出し日数に応じて原価や売上を計上できる仕組みが付加されているものがありますから、きめ細やかな原価計算に役立つと言えます。
建築業には業界特有な考え方があります。個別原価計算の他に、工事進行基準など特殊な考え方もありますし、建築業特有の慣習や制度もあります。それらのことを思いに留めて、原価管理ソフトもその実情に合った選び方が必要であることがわかります。